蜜愛フラストレーション
女性のような話し方と紳士然としたスーツが違和感を覚える男性。——犯人はユリアさんだ。
そのまま彼女に車へと誘われ、素直に乗り込んだ私の顔は不機嫌に違いない。
闘牛の名を持つ車は独特のエンジン音を鳴らし、賑わう夜の街に足を踏み入れた。
男性物のスーツを見事に着こなし、ハンドルを握るユリアさんの横顔を見ながら問いかける。
「どういうつもり?」
エンジン音を肌で感じるような静けさの中、棘のある私の声が車内に響く。
「兄貴と萌ちゃん溺愛のヤツからの指示〜」
攻撃とも捉えていないのか、さらりと返すユリアさんに悪びれた様子はない。
しかし、「兄貴?」と、つい気になったフレーズに首を傾げてしまう。
「ああ、そういえば教えてなかったわね。私ね、兄がひとりいるの。
あなたたちと一緒に働いてるでしょう?……ええと、今は確か、課長だったような?」
「はああ!?課長と兄弟ってなに!?」
冷徹かつ真面目で優秀な課長と謎多きセレブのユリアさんが兄弟。この衝撃的な事実に今までの怒りは驚きにすり替わった。
「萌ちゃんってほんと表情がころころ変わるわねぇ」
あっさり告げた本人といえば、信号停止した時にこちらを見てくすりと笑っている。
「あれ?でも、名字が違って」
課長は菅原姓だったはず。はたと気づいて口にすると、ハンドルを握る彼女から答えが返ってきた。