蜜愛フラストレーション
「どういうこと?」
聞き捨てならない言葉に、軽快に運転中のユリアさんを慌てて見やる。
「普通にルームシェアよ〜」
「いきなり何?」と眉を寄せる私を知ってか知らずか、上機嫌で話を続けていく。
「だからぁ、全力で守るってこと!あ、これは兄貴と優斗に頼まれたの。アイツら、ほんと心配性よね。
寂しい時は、優斗だと思って存分に甘えていいわよぉ?ついでに、この姿の時は“百合哉”って呼んでね〜」
「……いま本名知ったよ」
「そうだった?百合と私は一心同体なのよ〜。てことで、萌ちゃんの家まで荷物取りに行くから」
曖昧な説明に納得しきれないものの、根掘り葉掘り聞く気はなかった。彼女が意志を曲げないと知っているからだ。
運転中のその姿は凛々しくあり、“月花 百合哉”という名前まで某歌劇団も顔負けの美しさを誇っている。
名は体を表す、これを体現する人が身近にいたとは。明らかにお門違いな感想を抱く思考は小休止しているに違いない。
長い髪を束ねた女性的な美しさも備えた彼女を見続けていたら、ふと疑問が浮かんだ。
「……その格好って今日限定?」
「やーねぇ、私も真面目に仕事してるわよ?あっちは夜と休日用ね。ま、判断材料に使う時もあるけどぉ」
彼女の黒い面を見た気もするが、ふたりから守護依頼をされるあたり大変な猛者なのだろう。
暫くして私のアパートに到着し、急かされながらオフィス用の服と普段着やメイク道具にケア品をキャリーバッグに詰め込んで。
食べ物も生鮮品は持って行くことになり、冷蔵庫の心配はなくなった。最後に戸締まりしてから、足早にアパートをあとにする。
ランボルギーニにはおよそ不似合いなそれらと私を乗せると、運転手のユリアさんは再び闇に染まった道を軽快に走り始めた。
優斗と課長に先に謝罪しよう。——この1日で起きためまぐるしい変化により今夜はとてもゆっくり休めません、と。