蜜愛フラストレーション


やがて車は青山の閑静な住宅街に差しかかり、暫くしてセキュリティ万全な低層マンションの地下駐車場に進入した。

駐車し終えるとようやく独特のエンジン音がストップ。すぐに両サイドのドアが上方向に開かれた。

さっさと車を降りたユリアさんが荷物を降ろし始めたので、慌てて私も車外に出て手伝う。

「ここがユリアさんのお家?」

「んー、ていうか、このマンション自体がそうね」

なに言ってるの、と突っ込みたくなる気持ちを抑えた。月花家の金持ちスケール恐るべし、と。

荷物を全て車から取り出すと、スマホで誰かに連絡を取った彼女。その場で待っていると、すぐさまふたりの男性が現れた。

「じゃあよろしくね〜」と、軽い口調で私の荷物一切を託してしまった。

ポーターもしくはコンシェルジュ、あるいはユリアさんの秘書という疑問を残し、彼女について地下から直通のエレベーターに乗り込む。

ユリアさんのお家に向かう途中、ここは所有する物件のひとつで、実家は松濤にあると教えられた。

他にも何軒か家を所有しており、その時の気分で移り住むとか。もはや庶民の想像の範疇を越えている。

案内されたのはペントハウスで、最上階のフロアすべてが彼女の自宅らしい。大理石の広々とした玄関から、白を基調としたリビングに通される。

すでに21時に迫る現在。持参した材料も使い簡単に調理するため、話しがてらふたりでキッチンに向かった。

料理教室が開けるほど洗練された空間で、腕前もプロ級な彼女の補助に回る。未だに状況を呑み込めない割に手はよく動いた。


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