嵐の夜に。【短編】

「どうした?」


後ろから小声でいきなり話しかけられて驚いた。



振り向くと同時に、私の辞書の横に、本の山が積まれた。



わたしはひゅっと息をのんだ。


枝野先生が私の後ろに立っていた。



先生、気配がないよ!


会えて嬉しいはずなのに、いきなりの登場に慌てさせられる。



「『源氏物語』はやっぱり難しいか?」


「あ!」



とっさに『源氏物語』の表紙を手で隠した。


古文の授業も受けてないのにこれを読んでいるなんて、わたしの気持ちが見透かされそうだ。



「隠しても無駄だよ」


先生がわたしの耳にささやく。


その行為に意味はないと自分に言い聞かせた。


だって『図書室は静かに』だ。

< 26 / 51 >

この作品をシェア

pagetop