嵐の夜に。【短編】
「どうした?」
後ろから小声でいきなり話しかけられて驚いた。
振り向くと同時に、私の辞書の横に、本の山が積まれた。
わたしはひゅっと息をのんだ。
枝野先生が私の後ろに立っていた。
先生、気配がないよ!
会えて嬉しいはずなのに、いきなりの登場に慌てさせられる。
「『源氏物語』はやっぱり難しいか?」
「あ!」
とっさに『源氏物語』の表紙を手で隠した。
古文の授業も受けてないのにこれを読んでいるなんて、わたしの気持ちが見透かされそうだ。
「隠しても無駄だよ」
先生がわたしの耳にささやく。
その行為に意味はないと自分に言い聞かせた。
だって『図書室は静かに』だ。