嵐の夜に。【短編】

小声でもよく聞こえるようにと、耳のそばで話してるだけに決まってる。



「えっと、やっぱり意味のわからない単語も多くて、いまいち理解できないです」


本当は問題なく読めてるって見栄をはりたいところだけど、

辞書を確認しながら読んでる姿を見られたわけだ。


今さらだろう。



「そうだろうな。初めて読むとなれば、誰でもそんなものだ」


「本当ですか?」


「ああ。良かったらこの本を読むといい」



先生はさっき積み上げた本をポンと叩いた。


かなり古い絵柄で、着物姿の女性たちや男性が描かれている。



「漫画ですか?」


「そうだ」



先生はわたしの右となりに腰掛けた。


その拍子に、爽やかな香りが鼻をくすぐる。


香水というほど強くないし、シャンプーか何かの香りだろうか。


わたしは先生との距離の近さを意識した。

< 27 / 51 >

この作品をシェア

pagetop