嵐の夜に。【短編】
小声でもよく聞こえるようにと、耳のそばで話してるだけに決まってる。
「えっと、やっぱり意味のわからない単語も多くて、いまいち理解できないです」
本当は問題なく読めてるって見栄をはりたいところだけど、
辞書を確認しながら読んでる姿を見られたわけだ。
今さらだろう。
「そうだろうな。初めて読むとなれば、誰でもそんなものだ」
「本当ですか?」
「ああ。良かったらこの本を読むといい」
先生はさっき積み上げた本をポンと叩いた。
かなり古い絵柄で、着物姿の女性たちや男性が描かれている。
「漫画ですか?」
「そうだ」
先生はわたしの右となりに腰掛けた。
その拍子に、爽やかな香りが鼻をくすぐる。
香水というほど強くないし、シャンプーか何かの香りだろうか。
わたしは先生との距離の近さを意識した。