嵐の夜に。【短編】
先生に手首をつかまれる。
「先生?」
わたしは先生を見下ろしながら、首をかしげた。
腕をくいっくいっと引っ張られるのは座れという合図だろうか。
もう一度座りなおすと、先生は小声で言った。
「この漫画は図書館の本じゃない」
「え」
わたしは先生の顔を見た。
メガネの奥の瞳は相変わらず何を思っているのかわかりづらい。
「私の私物なので、貸出手続きはいらない。
ただし、あまり生徒と貸し借りしないから、他のやつには内緒だぞ」
先生は唇の前で人差し指を立てて、内緒のポーズを取った。
……それ、反則なんだけど。
わたしよりも年上で大人のくせに子供みたいなポーズをするなんて、
男の人なのに可愛いと思ってしまった。
あ、待てよ。