嵐の夜に。【短編】
先生がわたしの手を引っ張った。
とん、と何かにぶつかる。
ぶつかったものから、爽やかな香りがした。
先生の手が背中に回されて、わたしは先生の胸の中にいるとわかった。
「……大丈夫か?」
「はい」
囁き声に小声で返答する。
どうして抱きしめられているのか。
訊きたいのに頭の中はパニックになっていて言葉にならない。
静かな室内に、窓の揺れる音や雨音が響く。
その度に肩がビクッとする。
窓が割れてしまうのではないだろうか。
「宮下、私の心臓の音を聞いて」
そう言われて初めて、トクンと聞こえた。
あれ、なんでだろう。
トクン、トクンと鳴るリズムを聞いていると、とても安心する。
そう思った途端に、唐突に伝えたいと思った。