bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
RRRRRRR
電話の着信音に、複雑に絡み合っていたように感じていた舌は、いとも簡単に私の中から離れていった。
「もしもし。あぁ。うん」
いつもの穏やかな声で電話の相手に相槌をうつ唯野主任を見ながら、熱を帯びた私の体はなかなか熱を下げることが出来ずに、私は俯いて大きく息を吐いた。
「ごめん、ちょっと今から外出しないといけなくなったから、行くね」
頭を撫でてくれる唯野主任の顔なんて恥ずかしすぎてみることが出来ず、私はただ頷くだけだった。
「あんまり無理しないようにね」
「ありがとうございます」
やっと出た言葉を言い終わらないうちに、唯野主任の顔は私の耳元に近づいてきて
「続きは、今度」
そう言われたものだから、それ以上の言葉も発することが出来ない。
私は目を見開き、口をパクつかせた。
フッと唯野主任はいつもの穏やかな微笑みを浮かべ、私の前髪を撫で、おでこに軽いキスを落とした。
「じゃ、お大事に」
唯野主任は、いつもの優しい口調で私に言うと颯爽と医務室から出て行ってしまった。
私は、その場から動くことも、自分の身に起きたことを飲み込むことも出来ずにいた。