bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
「ひかり、大丈夫なの?」


隣の席の香奈子先輩が小声で話しかけてきた。


私は笑顔を作って頷いたけれど、香奈子先輩は、それでも心配そうな表情をしている。


「すみません、香奈子先輩にもご心配おかけして」

改めて香奈子先輩にも頭を下げる。



すると香奈子先輩は私の耳に顔を近づけて、


「一番心配してたのは、本郷主任だけどね」

誰にも聞こえない声で、囁いた。



「まさか。」

そんなこと信じられなくて、フッと鼻で笑った。


そんな私をみた全てを見通しているような笑顔を浮かべながら香奈子先輩がまた私の耳に顔を近づけて囁いた。




「医務室にひかりを運んだの、本郷主任よ。」



「ひかりが倒れちゃってみんなびっくりしてたところに、一番に駆け寄ってお姫様だっこして運んだのよ」

 

「えっ!!えっ!!ええええええええ!!!!」



私はささやき声の香奈子先輩とは対照的にフロア全体に響き渡るような声で叫んだ。


フロア全体にいた社員が私の方に視線を向ける。



その視線のあまりの冷たさと

「安藤!!!お前うるさい!!!」

私の絶叫に対して即座に返された本郷主任からの怒号に、私は花が萎れたみたいにガックリ項垂れた。

 

香奈子先輩を横目でちらりと見やると、先輩は今にも吹き出しそうな顔を一生懸命堪えているのが伝わってくる。



項垂れたまま、私は香奈子先輩に小さな声で尋ねる。


「どういうことですか」

「どういうことって。そういうことよ。私は見たままを伝えただけ」




そう言って可笑しそうに囁いて、

「さーて、私は打ち合わせ、行ってきまーす」



自席からそそくさと立ち上がると、颯爽と出かけて行った。

 
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