bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
朝6時30分。
いつもよりも少しだけ早朝出勤していたコーヒー豆を挽いていた。
医務室で、あんなに怒られたのに・・・。
本郷主任が私をお姫様だっこ?!
そんなことするわけない・・・。
昨日から何度もそう思っていたけれど、仕事終わりに外出先から帰ってきた神部君を捕まえて尋ねたら屈託のない顔で笑った。
「あれには、僕もびっくりしたよ。本郷主任の愛を感じたね」
私は、これ以上息が出ない程に大きく息を吐いた。
ちゃんとお礼、いわなくちゃ…
そう思えば思うほど、意識のない中で起こった、生まれて初めてのお姫様だっこが恥ずかしくて仕方ない。
しかも相手は仕事の鬼の本郷主任。
お礼を言わなきゃいけないのに、私は恥ずかしくて昨日は定時で逃げるように帰ってしまった。
久しぶりの定時の退社だったけれど、体調も悪かったから近くのドラッグストアに買い物に出かけたついでに私は、コーヒーショップに立ち寄り、店員さんお勧めの自家焙煎されたモカマタリを購入した。
自宅から持ってきた小さなコーヒーミルでモカマタリを曳く。
ガラゴロという給湯室には似つかわしい音を立てながら、体調もほとんど回復した私は2人分だけモカマタリでコーヒーを淹れた。