bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
「でも管理職って大変そうなのに、唯野さんは、日曜日とか会社には行かないんですね。」
ふと、以前休日出勤した後に本郷主任と私服でディナーをしたことを思い出した私は、そんなことを口走ってしまった。
「俺は、休日出勤はしない主義なの」
顔は笑顔を浮かべていたけれど、唯野主任の声は明らかに1トーン低くなっていた。
「あっ、そんな深い意味はなくて・・・。なんか唯野主任は本郷主任とは全く違うなって思っただけで・・・」
しどろもどろに私が答える。
「んっ?いや、俺気にしてないから」
そうやって笑顔を見せてくれるけれど、唯野主任の眼は笑ってはいない。
むしろ「本郷主任」という言葉を出した瞬間に唯野主任は、怒りのオーラを発しだした気がする。
「唯野主任は、優しいし、いつも穏やかだし。怒ってばっかりの本郷主任とは全く違うっていうか」
あー、何言ってるんだろう私。
そう思いながらも、唯野主任の怒りを鎮めるために何か言ってフォローしなきゃいけないと、私は喋ることをやめることが出来ない。
「いつも優しいから、きっと結婚したら素敵な旦那様になってくれるって思うし。」
「子供だってきっと可愛い子が生まれて、素敵なイクメンになると思う。」
「それで・・・」
「それで?」
静かに、低い声のトーンで唯野主任に訊き返されたけど私は次の言葉が見つからない。
結局、答えることも出来ずに、私は俯いて黙りこむことしか出来ないでいた。