bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-

片付けも一段落しそうな頃、2人でしゃがみながら床を拭きあげていた時、ふと気になって



「なんで唯野主任とのこと知っているんですか?」


そう聞いてみたら、本郷主任は私の顔を見ることもなく、床を拭き続けていた。



「安藤を見てたら、だいたいある程度のことはすぐ分かる」



いつものぶっきらぼうな感じで言われてるのに、


わかりやすいのかな、私。


そう言い返したかったのに、なんだか躊躇われたのは、胸の鼓動が速くなるのが分かったからだった。




「あのー、香奈子先輩には…。」

自分の鼓動の早さを抑えたくて、話題を変えると、



「言ってねぇよ。…ったく。言えるかよ。この馬鹿。」

本郷主任は不機嫌そうに言い放つ。




そういえば、いつからだろう。

どんなに怒鳴られたって、どんなに暴言吐かれたって、その裏にあるちょっとした暖かさみたいなのが伝わってくるようになったのは。



それに気づいた頃から、本郷主任の怒号に必要以上に恐がることもなくなった。





そんな事考えていたから、その時は本郷主任の深い言葉の意味など知る由もなく、私は最後の仕上げに床を拭きあげた。




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