bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
「ひかりには、関係ないから気にしないで。俺と本郷さんの話」
「でも…本郷主任が、」
そう言った私の次の言葉をふさぐように、アルコールの匂いの残った唇を重ねた。
「これ以上、何も聞くな。それに、本郷さんのことを口にするな」
予想以上に冷たくて、それでいて苦しそうにその言葉を吐き捨てた唯野主任は、私の舌をあっという間に絡め取ったかと思うと、耳元、首筋、胸へとだんだん下の方へキスを落としていく。
決して優しいとはいえない、獣のような唯野主任の唇や指に私は翻弄されていく。
落とされたキスは赤い小さな花びらのように私の身体に痕を残しながら、唯野主任の所有物だと分かるかのようにマーキングされる。
唯野主任に激しく揺さぶられながら、私は唯野主任の私に対する愛情とか優しさとかそんな感情とは全く異なる、私ではない誰かにあてた沸々とした怒りのような感情を私にぶつけられている気がしてならなかった。
本当は、唯野主任の言葉の真意だとか、今日のエリカ先輩のこととか、聞きたいことや話したいことは他にもあったのに、唯野主任の感情を身体を呈して受け止めることしか出来ないでいた。
私は、そんな唯野主任に抱かれながら悔しさとも悲しさとも表現できない涙が頬をつたった。
それでも、薄暗い部屋でそんな私には気付くこともなく唯野主任は、私を抱き続けたのだった。