bitter and sweet－主任と主任とそれから、私－

エレベーターが１階に到着して、ドアが開くと同時に、私はいち早くこのビルから外に出たくて急ぎ足でエレベーターから降りようとすると、誰かにぶつかってしまう。


「申し訳ございません」

深くお辞儀をすると、



「ったく。安藤、ちゃんと前くらい、確認して歩け。小学校で習っただろう」


聞きなれたちょっと低めの怒った声が頭の上から降ってきたから、思わず頭を上げると、そこにはやっぱり本郷主任がいた。



本郷主任は、私と目があうと驚いたように目を見開く。

「安藤、なんかトラブルでもあったか？」



眉をひそめながら、背の高い本郷主任は少しだけ屈んで私の顔を覗き込んだ。



きっとひどい顔をしている事くらい私にだって分かる。

「いえ、大丈夫です。今から、打ち合わせ行ってきます」



「なら、気合い入れて行け。そんな顔して、打ち合わせなんていくな」



私の答えを聞くと、全てを理解したかのような顔した本郷主任は、いつものように不機嫌そうに怒鳴った。


「すみません。行ってきます。」

「おぉ」

 

そうだ、こんな顔してちゃいけない

気合い入れなきゃ。

 



本郷主任の言葉に少しだけ背中を押された私は、気合いを入れ直して打ち合わせに向かった。