bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
なかなか集中なんて出来ずに仕事がはかどらないでいた。
こんなところに本郷主任がいたら、絶対怒られるだろうな。
そんなことを想像すると、なんだか可笑しくて少しだけ口元がゆるんでしまう。
「お前、直帰するんじゃなかったのか?」
本郷主任のことを想像していたら、本物の本郷主任に急に声をかけられたので、背筋が伸びた。
「これだけ、まとめたくて。本郷主任、残業なんて珍しいですね」
「地球に隕石が落ちてきたような顔で部下が他社との打ち合わせに出かけて、トラブルにでもなったらって考えたら、飯も食えねぇよ」
フンと鼻で笑って、言いながら私の横を通り過ぎていく。
心配して待っててくれたんだ。
「ご心配おかけして、申し訳ありません。それから、待たせてしまって…」
「安藤なんて、待ってねぇよ」
意外に不器用な本郷主任の優しさが私の傷ついた心に染みわたっていく。