bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
唯野主任が、その場から居なくなっても、誰も何も喋らなくて重い空気が流れる。
香奈子先輩の手が私の背中をさすってくれる。
その掌から背中に伝わってくる暖かくて優しい体温で私の固まっていた心も体も一気に溶けだしたかのように、私はその薄暗くて冷えきっている廊下にしゃがみこんでしまった。
「ひかり!!!」
「安藤!!大丈夫か?」
本郷主任が近づいてきて、身体を支えてくれる。
どう言葉を発すればいいか分からない、いや、きっと言葉を発することが出来たとしても何と言っていいか分からなかった。
ただただ、背中に伝わる香奈子先輩の手のぬくもりだけが、これが夢なんかではない現実だということを教えてくれている気がする。
その手から伝わってくる優しさに、涙が溢れて来るまで時間はかからなかった。
幸いその場には私と本郷主任と香奈子先輩の三人しかいなくて、もうアイメイクもきっとぐちゃぐちゃで、ついでに鼻水まで出てきたのに、香奈子先輩はそんな私を子供のように抱きしめてくれた。
「ひかり、もう唯野主任とは別れなさい」
そうやって優しく、でもその言葉には強さがあって私を諭すように言ってくれる。