bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
「香奈子、唯野さんと安藤のこと、お前知ってたのかよ」
私たち二人のすぐ近くで成り行きを見守っていた本郷主任が香奈子先輩に呟くように尋ねた。
「結構前から気付いてたわよ。女の勘ね。一馬、私に気を使ってたんでしょ。ありがとね」
私が香奈子先輩の胸を借りて泣いている間、香奈子先輩と本郷主任は上司と部下ではなく、友達として話をしていた。
「でも、そんな変な気なんて使わないで、早く言ってよ。そしたら、ひかりがこんなに傷つかなくてもよかったのに」
本郷主任は何も言わず、ため息をつくのを見逃さなかった、香奈子先輩が捲し立てる。
「私は、聞いても今さら傷つかなかったわよ。でも、もし、一馬が私が傷つくと考えていたとしてさ。私とひかり、どっちが傷つくのを見ていられなかった?」
「そんなの、決まってるだろう」
ぶつぶつと仕方なしに答える本郷主任の言葉。
でも、その先に、その答はなくて、本郷主任は逃げるようにしてフロアに戻って行った。