bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
穏やかな顔で、それでも目は笑っていなくて、どこか冷たく突き刺さるように、唯野主任は私の質問には答えなかった。
店内のゆったりとしたクラシックのBGMが沈黙した私たちの間をすり抜けていく。
「ごめん。結局、こういうことなんだよな。俺、ひかりは結局、部下だから本音とか弱いところとか、過去とかを見せられない」
この恋愛が終わることは、自分でも確信していて何度も覚悟をした。
自分でも納得したはずなのに、涙が溢れてきそうなのは、やっぱりどこかで唯野主任のことが好きだったからで。
涙を見せたくなくて、下唇を噛みしめていたけれど、どうしても気になって、震えそうになる声を必死で堪えて尋ねた。
「…エリカ先輩は?エリカ先輩には本音言えるんですか?」
「そうだな。ただあいつとは、昔からの腐れ縁で、そういう関係じゃないから。」
そう言う関係じゃない。
なのにどうしてあの時キスをしていたのか。
そんなことを聞くことが出来なかったのは、唯野主任が雨が降りしきる窓の外をどこか遠い目をして見つめていたから。
それは私ではない誰かを想っていて、儚げで、何かを悟っているようで、私は声をかけることも出来ず、その横顔を眺めていた。