bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
何も知らなかった。
唯野主任と香奈子先輩とのことも、本郷主任と唯野主任とのことも。
それにいつもニコニコ笑顔を見せて穏やかにしている唯野主任の見せることの出来ない本音、それが何かも少しだけ見えた気がした。
やっぱり唯野主任に昨日言われたように私は彼女ではない、結局1人の部下に過ぎなかったからそれを見せれなかったのだ。
そう思ったら悲しくて、悔しくて、そして何よりそんなことを気づくことも出来なかった自分が情けなくて仕方なかった。
そんな私に気付いたのか、本当に何をどこまで知っているのか分からない、お父さんのような前島さんが私に向かって苦笑いしながら口を開く。
「そして、ようやく好きになって付き合った女さえ、心を奪って持っていかれたら、さすがの唯野主任も穏やかにはいられなかったんだと思うぞ。なぁ、安藤さん?」
「ん?どういうことですか?前島さん」
前島さんの言葉に意味を理解できなかった神部君は前島さんにその真意を尋ねるけれど
「神部ー、お前がもう少し大人の男になったら、理解できる」
そう言って笑ってくれていた。