bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-

「本郷主任の仕業よ」



やれやれといったような香奈子先輩のジェスチャー。



私は驚きのあまり口をパクつかせているのが精いっぱいだった。




「ひかりが遅刻しないようにって、モーニングコールならぬモーニングインターホンってやつ?わざわざ遠い駐車場に車停めてまでひかりのためにするなんてね。でも、ひかりは怖かったでしょ?…。」



私は何も言わずに頷いた



「あいつ、本当に不器用過ぎて、時々することが裏目に出ちゃうけど、仕事の鬼の本郷にそこまでさせるなんてひかりは愛されてるわね」




ふふふっ笑う香奈子先輩に私は大きいため息をついた。

 

犯人が分かった安堵感。

それが本郷主任だったという驚き。

そして本郷主任の不器用な優しさ。


それを素直に嬉しいと思えている自分。





それでもそんな時、思い浮かんでくるのは「部下には手を出さない」と言い切った本郷主任の言葉。



そしてこの間、「コーヒーいらない」と拒まれたこと。

 

きっと本郷主任の私に対する優しさは、ちょっと手のかかる部下への優しさ。

きっともう本郷主任には、朝からコーヒーを作ってくれる素敵な大切な人がいるのだろう。

 



そう思ったら、なんだかまだ就業前なのにひどく気分が落ち込んでしまっていた。

 



< 218 / 282 >

この作品をシェア

pagetop