bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
「近くのお店の店長オリジナルブレンドです。」
思わず上擦りそうになった声がばれないようにと、必死で平静を装いながら答える私に、
「へぇ」
と呟いて、毒が入っていないかと確かめるようにまじまじとコーヒーを本郷主任が覗きこんでいたから、
「いつも、心配してもらったり、お世話になってるお礼です」
私は慌てて付け足した。
「お歳暮みたいなもんだな」
そう言って私を見て笑っている本郷主任があまりにまぶしくて、胸の鼓動が聞こえてしまいそうな位大きな音を立てている。
そんな私には気付く様子もなく、私の方を見つめ続けていた。
そして少しだけ姿勢を正すようにした本郷主任は、いつもの主任からは想像もつかないほど優しい声で言った。
「安藤、コーヒーいつもありがとうな。それから…」
「おはようございまーーす。」
本郷主任が何か言いかけたのを遮るように、さわやかに人懐っこい笑顔で神部君がフロアに入ってくる。
「神部、早いな…」
本郷主任もなんだかドギマギしながら神部君に対応していたが、神部君が自席のパソコンの電源を入れる頃にはフロア内にはいつもの朝の時間が戻っていた。