bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-


年度末に向けての作業だろうか、何冊かのファイルとパソコンを見ながら、殺気立ったようにして作業している本郷主任は仕事の鬼そのもので、こんな時は話しかけない、関わらないに限る。



それでも本郷主任のことが気になって仕方なくて、仕事なんて手につかなくて、目で追ってばかりいた。

 



「本郷主任、辞めちゃうんですか?」

「辞めないでください」

そう聞けたら、そう言えたらいいのに…。

でもきっと、そんなシチュエーションになっても、私は本郷主任にそんなこと聞けない。

本郷主任の決めたことに辞めないでなんて、言えない。


ううん。
本当のことを聞く勇気がないだけ。
ただ、臆病なだけ。

 



本郷主任が辞めること、自分自身の不甲斐なさを自覚してしまったせいでどんどん気分は急降下していくのが分かる。



そんなことを考えながら、無意識に本郷主任のことばかり目で追いかけていたら、思い切り目があってしまった。


< 232 / 282 >

この作品をシェア

pagetop