bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
いつもなら瞬時に視線を逸らして、仕事に集中しようと気持ちを切り替えることが出来るのに、今日に限っては気持ちを切り替えるどころか視線を逸らすことすら出来ずにいた。
そのせいで私は本郷主任と数秒間離れた場所で見つめ合ってしまった。
徐々に本郷主任の眉間に皺が寄っていくのが分かった。
それでも私が視線を離すことが出来ずにいると
「安藤、帰れ」
冷たく、怒りを含んだ低い声で本郷主任は言い放った。
いつもなら平謝りなんかして、直ぐに仕事に集中できるのに、今日の私はその声に動けずにいた。
正確には、動けなかったのではなく、動かなかった。
「残業代に見合わない仕事するじゃない。集中できないなら、帰れ」
さっきより語気が強くなったのを私は感じたが、思わず震えそうになる声を必死に堪えて
「嫌です、帰りません」
私は本郷主任を瞳の中央に見据えて言った。
自分でも驚くほど、強い口調だったということだけは分かった。
後でよく考えれば、初めて本郷主任に反抗的な態度をとったんじゃないかと思う。