bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
「えっ?」
思わず、本郷主任の胸から顔を離して本郷主任を見上げると、いつもの沈着冷静な仕事の鬼の雰囲気はない。
その瞳は揺らいでいて、表情も何かを考えているようで戸惑っていて、私の見たことのない本郷主任の姿だった。
「ったく。誰が言ったんだよ。俺、辞めねえよ。しかも、彼女もいない」
頭を掻きながら、そう言った本郷主任の姿を見たら、急に全身の力が抜けて床に座り込みそうになった。
それに気付いて、本郷主任はもう一度力強く抱きしめて支えてくれる。
「あっ。すみません。なんか、安心しちゃったら腰抜かしちゃいました。もう大丈夫です」
そう言って、足に力が入ることを確認すると本郷主任の腕の中から出ようとした。
それなのに本郷主任は余計に腕に力を込めて私を腕の中に閉じ込めた。
「もう少し、こうしていろ」
耳元で一言だけそう囁かれると、私は静かに頷いた。