bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-

「前の彼女と別れた時、結構しんどくてさ。…でもひかりが毎朝変わらずにコーヒー淹れてくれて、それが美味しくて、今日も頑張ろうって気合い入れることが出来て、仕事に集中できた。」




なんだか気恥ずかしくて私が俯くと、本郷主任は繋いでいた手に力を込めた。




「3ヶ月で辞めていったあの新人が作ったコーヒーがひかりのコーヒーと随分違ってた時に、朝からひかりの姿がないのが気になって。気づいたらひかりのこと、目で追っていて、フロアに居ないと気になって仕方なくて。それでもずっとひかりのことが気になるのは『部下だから』って自分に言い聞かせてた」





私は本郷主任の手を握り返した。






「そんな理由をつけて、言い聞かせておかないと自分の気持ちが抑えきれなくなりそうだった。ひかりに寄っていく男性社員に嫉妬したり、ひかりにだけ無意味に怒鳴りつけたりしてさ。だめだよなぁ。ひかりが居ると俺の調子が狂うんだよ。」



そう言って、吸い終わった煙草を灰皿に押し付け、頭を掻きながら苦笑いする。そして、本郷主任は私の方に身体を向き直して見つめた。



私もその視線に気づいて見つめ返す。

< 251 / 282 >

この作品をシェア

pagetop