bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-

「おはようございます」



本郷主任が自席に座ったいつものタイミングで私はコーヒーを差し出した。




「ありがとう、ひかり。」


そういって少しだけ疲れの色が残る顔を私に隠すように微笑みかけてくれる。



早朝、二人きりのフロア内でこっそり下の名前で呼んでくれる本郷主任。

これだけが付き合い始めて変わったこと。





私は、まだそれに慣れなくて毎回のようにはにかんでそそくさと踵を返して、自席に戻る。




自席からこっそり本郷主任を覗くと、そんな様子の私を見ながら口角をあげて笑っていて、私の視線に気づくと素知らぬ顔で新聞を読み始めた。




でもその横顔は、いつものように美しくて、今まで見たことない程ご機嫌のようだった。




砂糖を入れた甘いコーヒーを一口啜る。



付き合い始めてこっそり新調したマグカップは、本郷主任と同じメーカーのもので、1人でこっそりお揃い気分を味わっていた。

 
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