bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
「ひかりも、コーヒー飲むか?」
キッチンで、無駄のない動きをしながら、本郷主任はいかにも高級そうなエスプレッソマシーンのスイッチを入れていた。
「はい、お願いします…」
「OK。」
本郷主任は、私の答えに、満足そうな笑顔を覗かせて一言だけ返事をした。
キッチンカウンターからリビングに突っ立ったままどうしていいか分からずに居る私に、本郷主任は換気扇を回して、煙草に火をつけ、いつもは絶対に見せてはくれない笑顔を浮かべた。
「やっと、二人きりになれたな」
キッチンカウンターの向こうから放たれた本郷主任の言葉に、急に勢いで連れてこられたとはいえ、本郷主任の家で、二人きりという状況を意識してしまってドギマギする。
「そっ、そうですねー」
動揺しながらも、どうにか口を出た言葉は意識しすぎて声が上擦ってしまった。
そんな私の様子を見て、おかしそうに本郷主任が笑いながら、あっという間に出来上がったコーヒーを持って、私をリビングのソファに座るようにと促してくれた。