bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
7時15分。
そろそろ時間だ。
トレーに乗せた自分のカップを持ち、給湯室で張り紙を見ながら一口すする。
「ひかりは真面目すぎる。上司よりも新人は先に出社しないといけないとか別に気にしないでいいんじゃない?一馬・・・じゃなくて、本郷主任もそんなこと気にしてないから。」
張り紙を見ながら、入社して半年過ぎた頃、セルフサービスの張り紙を書いた張本人の香奈子先輩に言われたことを思い出す。
香奈子先輩こと内海香奈子先輩は、うちの部署、アイユウ企画広報部の「裏ボス」と呼ばれている。
バリバリのキャリアウーマンで、3年前に結婚、1年前育児休暇から復帰、現在は子育てもしながら働いている。
仕事が出来て、面倒見もよく、その上、美人で、毎日綺麗にメイクして、仕事着のセンスも着まわし方も、ヘアアレンジもオシャレで、文句のつけようがない、私の憧れだ。
確かに企画広報部は、新人が朝から給湯室の掃除とコーヒーの作り置きをすることが暗黙のルールとなっている。
そこに男も女も関係ない。
そして、その仕事は始業時間の9時までに済ませればよいことになっている。
だけど、私はもう1年以上、7時出社をしている。
誰に頼まれたわけでもない。
部署内で唯一の同期、神部速人くんは入社3ヶ月で
「安藤さんに任せる、俺は企画チームだから」
そう言って、7時出社を諦めた。
上司より早く出社する。
大学の就職セミナーで習ったマナー講座の先生が、新人として乗り切るコツを教えるときにふと言っていた言葉がずっと頭に残っているからだ。
入社の頃から、この教えをひたすら守り、7時出社している。