bitter and sweet－主任と主任とそれから、私－

そんなことを思い出しながら、もう一口コーヒーを啜ったところで、もう７時１５分だと気づく。


そろそろ、彼がやってくる時間。


私の上司、企画広報部の広報チームの主任こと本郷一馬は、毎朝７時１５分にやってくる。


エレベーターが開く音がして、フロアへ向かう足音を給湯室で聞く。

足音が聞こえなくなる瞬間を狙って、私は給湯室から、自分の分と、主任のコーヒーを入れたカップをトレーに乗せてフロアへ向かう。


本郷主任は毎朝、自席に着くとパソコンを立ち上げる。

その間に、新聞のチェックをする。

そしてチェックが終わると9時まで、というよりほかの社員が出社する８時半過ぎまで怒涛のように仕事し、ほかの社員が出社してくる時間になると、挨拶しながら少し仕事スピードを落とし、メールのチェックなどをするのが日課だ。


この１年で毎朝同じことを繰り返すから、私は新聞を読み始める瞬間にコーヒーを主任のデスクに置くことが出来るまでになった。


「おはようございます」


そう言って、１年間で覚えた、彼が好む濃いめのブラックコーヒーをデスクに置くと、本郷主任はいつもと変わらず

「ありがとう」

一言だけ呟くように言いながら、本郷主任は新聞を見ている。


私は給湯室にトレーを返し、自席に戻ってパソコンのメールを確認しながら今日の仕事の段取りをつける。