bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
その時、陽気な電子音がして電話がなる。
ナンバーディスプレイには「お母さん」と出ている。
「もしもし」
電話に出ると、明らかに酔っぱらっているお母さんが高らかな笑い声とともにマシンガンのように話し始める。
「ひかり?起きてたの?ねぇ彼氏は出来たの?」
もう今月になってこんな電話は4回目だ。
「ひかりの同級生だったお向かいのマンションの由美ちゃん、来週結婚式なんですって。それに武おじさんとこは、もう孫が2人もいるって。お母さんうらやましいわー。」
ゆみちゃんのことも、武おじさんのことも前回と同じ。
大学を出てから直ぐにお父さんと恋愛結婚をして家庭に入ったお母さんは、ほとんど働いたこともない。
そのせいか社会人として2年目を迎えた数ヶ月前から「早く結婚してほしい」だとか「彼氏はいるの」だとかいう電話が頻繁にかかってくる。