bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
地下の駐車場で警備員のおじさんが好奇の目で見ているのを、睨み返して安藤を助手席にのせる。
いつもの安藤の匂いと違うフローラル系の香水の匂いがする。
その匂いに、一瞬部下であることを忘れそうになる。
隣をちらりとのぞき見ると安藤は緊張からかシートベルトをして全身に力を入れ、背もたれにももたれず姿勢を正している。
その姿が安藤らしくて、つい鼻で笑ってしまった。
「何ですか?」
安藤が怪訝そうに俺を睨むので、
「背もたれ、もたれりゃいいじゃん」
「結構です」
俺も提案も即答で断った安藤だったが、少しだけ肩の力は抜けたようだった。
それから好きな食べ物なんかのたわいもない話をしながら盛り上がっていたが、ふとお互い無言になると、安藤のシンプルなベージュのネイルを施したか細い手を繋ぎたくなる衝動に駆られる。
そんなことは気付きもしない安藤は、俺の隣で喋りながらいつものように笑っている。
「安藤はあくまで部下」
その言葉を何度も胸の中で言い聞かせていた。