bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
結局、午後の会議と取材対応をしてフロアに戻ってこれたのは午後8時を回った頃だった。
安藤や神部たちプロジェクトチームのメンバー数人と広報チームの数人がフロアで残業の最中だ。
「本郷主任、お疲れ様です」
「お疲れ」
神部が俺を見つけて、そう言うので残っていた社員が次々に会釈する。
安藤も同じようにしていた。
俺は帰り支度をして、フロアの出口に向かって出た。
「おい、安藤、ちょっと」
俺が急に廊下に呼び出したものだから、安藤は小さく返事をするとおびえているようにして、渋々こちらへ歩いてきた。
「別に怒らねぇのに」
1人で呟いていると、安藤がやってくる。
安藤は、電灯が暗いせいもあるのか目の下にくまを作り、顔色も悪いようだった。
「これ。」
10000円札を財布から取り出し、渡すと安藤は驚いて口を金魚のようにぱくつかせた。
「これで、残ってるやつに何か買ってこい。じゃ、おつかれ」
返事を訊かずにエレベーターに乗り込もうとする。
すると後ろから安藤が明るく言った
「本郷主任、ありがとうございます。頂きます」
その言葉を聞いて、俺の疲れ切っていた心に温かい何かが流れ込んできた。