bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
香奈子先輩とフロアに戻ろうとしていると、廊下で唯野主任とすれ違う。
「お疲れ様です」
会釈して通り過ぎようとすると、
「あっ!!!安藤さん、ちょっと」
本郷主任に声を掛けられ、振り返ると手招きしている。
「じゃ、ひかり。私、先に帰ってるね」
香奈子先輩の言葉に頷いて、私は唯野主任のもとへ向かった。
用件は別に2人きりで話すようなことでも、別段引きとめてまでも話す程の急用でもなかったけれど、プロジェクトチームの活動が増え、私はこの1ヶ月半、こうやって唯野主任と話すことが多くなっていた。
いくら仕事の話とはいえ、社内で「イケメン」として人気の唯野主任が昼休みに廊下で話していると女子社員の私を見る視線が痛い。
「ごめんね、引き留めてしまって。ただ二人で話したかっただけっていうのもあったんだけどね」
仕事の話を早々に切り上げて、唯野主任は真剣とも冗談ともとれることを言う。
「すみません、昼休みの間に準備しないといけない書類があるので・・・」
「そっかぁ。ごめんね」
俯きながら答えると、唯野主任は頭を掻きながら、1人社食へと向かった。
この1カ月半、唯野主任からのお誘いなんかも仕事を理由に断っている。
本当に仕事が忙しいということも理由にあるのだけれど、心の奥底では忙しさを理由に正面から向かい合うことを逃げているだけなのかも知れない。
それでも、毎日のように押し寄せる大量の仕事内容で私は唯野主任やエリカ先輩のこと、それから本郷主任の事を考えずに済んでいるのかもしれない。
そんなことを考えながら、私はフロアに戻った。