結婚したいシンドローム=特効薬は…あなた?【完】
もしかしたら部屋に誘われるかもしれないって言ってた奥田主任の言葉は現実のモノになった。本音を言えば、今すぐにでもこの場を去りたい。
でも、ここで拒否して帰っても、本当に説明を聞くだけだったと言われたらそれまで。反論出来ない。新田係長の真意を確かめる為にも断るワケにはいかない。
その時、奥田主任が小走りでホテルに入って来る姿が視界に入り、ホッとした私は覚悟を決めた。
「分かりました」
エレベーターに乗り部屋へと向かう途中、奥田主任が居てくれるから大丈夫と何度も自分に言い聞かせ、常務の後を静かに付いていく。
そして、誰も居ない廊下を進み一番奥の部屋の前で常務が立ち止ったのを確認すると、彼がドアの鍵を開けている隙に胸ポケットからスマホを少し引き上げ部屋番号を呟いた。
奥田主任、聞こえてるよね?奥田主任だけが頼りなんだから……
「さぁ、入って」
「は、はい」
機嫌良く部屋に入って行く常務に続き部屋に入ると、これも奥田主任に言われた通り、ドアの自動ロックが掛らない様に名刺をソッとドアに挟む。
もう心臓はバクバク。こんな事なら、もっとスパイ映画を観て勉強しとくんだった。なんて後悔し、部屋の中を覗くと、ダブルベットが目に飛び込んできて更に緊張が増す。
「そ、それでは、保険の説明を……」
アタッシュケースからプラン書を取り出し小さなテーブルの上に広げるが、常務はプラン書を見ようともしない。
「説明はいらないよ。契約はする。そういう約束になってるからね……だから君も約束を守ってくれる?」
えっ?……どういう事?
「約束って……なんですか?」