結婚したいシンドローム=特効薬は…あなた?【完】

あっ!もしや、膝に感じたあの妙な感触は、常務の……アレ?うわっ!きしょく悪りぃ~って思ってる場合じゃない。逃げなきゃ!


ベットの上でヒク付いてる常務を残し、アタッシュケースを持つと髪を振り乱しドアに向かって猛ダッシュ。


その時、部屋のドアが勢いよく開き、奥田主任が「吉美田さん、大丈夫か?」と叫びながら飛び込んで来た。


「奥田……主任」


彼の顔を見た瞬間、助かったという安堵の気持ちと今までの恐怖が入り混じり、涙が溢れる。そして、無我夢中で彼に抱き付いていた。


「ごめん、エレベーターがなかなか来なくて……それで?山本常務は?」


彼の胸に顔を埋めたままベットを指差すと、奥田主任が低い声で聞いてくる。


「吉美田さん、山本常務に何したの?」

「それが……膝で股間を思いっきり蹴り上げたら、ああなっちゃって……」

「あ、あぁ……そう、アレを蹴り上げたんだ。それも膝で……完全にご愁傷様状態だね。お気の毒に……」


うずくまってる常務に同情の眼差しを向けた奥田主任だったが、すぐに真顔になり、私の体を離すと部屋の中へとゆっくり歩いて行く。


「でも、そうされても仕方ない事を山本常務、あなたはしたんです。今後一切、我が社と関わりを持たないで下さい。もちろん、新田とも。では、失礼します」


淡々とそう言って頭を下げると、私の手を引き部屋を出た。


「―――怖かったろ?」


凍り付く様な冷たい空気の中、奥田主任が心配そうな顔で白い息を吐く。


「あ……はい。でも、もう大丈夫です」


私達はホテルを後にし、仕事帰りの人達に紛れ駅に向って歩いていた。


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