結婚したいシンドローム=特効薬は…あなた?【完】
奥田主任、気付いてたんだ……
「えっ?あなたが斎藤君の彼女なんですか?」
驚くマスターの問いに、私はあえて否定も肯定もせず目を伏せる。するとマスターはそれ以上何も聞かず、笑顔で軽く頭を下げ、隣の客の空のグラスに手を伸ばす。
「失礼しました。今夜はゆっくりしていって下さい」
マスターが離れて行くと、私は真っすぐ前を向いたまま奥田主任に訊ねた。
「―――あの時ですね?」
「そう、あの時だよ。班の人達とランチしにカフェに行った時、斎藤次長が君のお父さんが倒れたと血相変えて飛び込んできた。あんな慌てた斎藤次長を見たのは初めてだ。
そして、あの時の会話……とても上司と部下とは思えなかったからね」
「やっばり、そうですか。でも、残念ながら私と斎藤次長は、もう付き合っていません」
「えっ……そうなの?」
そう、私は一輝に嫌われちゃったから……きっと、私の事なんて、もうどうでもいいんだよね。だから今回の件も無関心だったんだ。
苦笑いする私の横で、奥田主任が躊躇う事なく呟く。
「その方がいいかもね」
その理由を訊ねると―――「厄介な事に巻き込まれずに済むから……」彼は真剣な顔でそう言った。
厄介な事……その言葉を聞き、ハッとした。彼がどうしてそんな事を言ったのか、私には心当たりがあったから……でも、あえて聞いてみた。
「どういう事ですか?」
けど、奥田主任はその質問に彼は答えてくれず、話しをはぐらかしグラスに残っていたカクテルを飲み干す。