結婚したいシンドローム=特効薬は…あなた?【完】
「―――でも、斎藤次長が選ぶのは、新田係長だよ」
えっ……どうして奥田主任にそんな事が分かるの?
「……なぜ?」
「それも、もうすぐ分かるさ。それと、ひとつだけ君に忠告しておく。とばっちりを受けたくなかったら、新田係長の前で斎藤次長の話しはしない方がいい。
彼女は本気で斎藤次長に惚れてる。今日の事は、新田係長の警告みたいなものだ。これ以上、斎藤次長に関わったら何をされるか分からないよ。
とにかく、会社を辞めたくないなら何事にも深入りせず大人しくしてるのが一番。君が僕の言ってる事を正しく理解出来る利口な女性だといいんだが……」
気だるそうに立ち上がった奥田主任がカウンターに1万円札を置く。
「あ、それと、今日のアポの件は僕から斎藤次長に報告しておく。これも仕事だからね」
それだけ言うと、私に話す間も与えずバーを出て行った。
「はぁーっ……」
ため息しか出ない。いったい何がどうなってるのよ?どうして奥田主任にあんな事言われなくちゃいけないの?
「マスター、シーブリーズ下さい」
この苛立ちを抑えるには飲むしかない。飲んで何もかも忘れてしまいたかった。
「お待たせしました」
マスターが私の前に淡いピンクのカクテルを置き「こんな強いカクテル注文するって事は、なんか嫌な事でもあったの?」って優しい笑顔で聞いてくる。
「大アリです。イヤな事だらけ」
マスターに愚痴りながらグレープフルーツの香り漂うグラスに手を添えると、ポケットの中のスマホが鳴り出した。
こんな時に誰?とムッとしながらディスプレーを確認した私の手が震える。