結婚したいシンドローム=特効薬は…あなた?【完】

「あっ……新田……係長」


きっと、山本常務の事で電話してきたんだ。


出来れば出たくなかった。けど、逃げていても仕方ない。どうせ明日になったら顔を合わせるんだもの。


覚悟を決めディスプレーの上で指を滑らすと、私がまだ何も言わない内に『どこに居るの?』という新田係長の声が聞こえてきた。


「あ、あの……"ディップ"っていうバーに居ます」

『ディップって……どうしてあなたがそこに居るの?ひとり?他に誰か居る?』


矢継ぎ早に飛んでくる質問に答えられずにいたら、新田係長が『まぁいいわ。そこに居て。今から行くから』そう言って、一方的に電話を切ってしまった。


うそでしょ?今からここに来るの?てか、新田係長もこのバーを知ってるんだ……そう言えば、奥田主任が言ってたな。ここは一輝の同期が来てた店だって。その中に彼女も居たんだ。


どうにも落ち着かない私は、マスターが止めるのも聞かず、シープリーズを3杯も一気飲みしてしまった。酔わなきゃまともに新田係長の顔を見れないと思ったから。


20分後、思いの外早くやって来た新田係長は、マスターに挨拶すると奥のボックス席を指差す。


「あっちで話しましょ」


コの字型に配置されたソファーに深く腰を下ろし大胆に足を組んだ新田係長がスクリュードライバーを注文する。その斜め前に遠慮気味に浅く腰掛けた私を、彼女がギロリと睨む。


「山本常務から電話があったわ。あなた、私の好意を無にするつもり?処女じゃあるまいし、一晩くらい常務の相手したってどうって事ないでしょ?ったく、使えない娘ね」


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