結婚したいシンドローム=特効薬は…あなた?【完】
「昔付き合いのあった顧客から久しぶりに連絡があってね。お茶してきたんだ」
「そうなんだ。あ、父さんのお見舞いありがとね。たまには家にも顔出してって言ってたよ」
「うん、近い内にお邪魔するよ」
暫く父親の様子をあれこれ話していたが、突然泰造君が「俊之に聞いたよ~」って、ニヤリと笑う。
「聞いたって、何を?」
「一輝と結婚する事になったそうじゃないか。やっぱり、一輝は蛍子ちゃんを忘れられなかったんだね」
「ヤダ、父さんもう泰造君に話しちゃったの?相変わらずお喋りなんだから……」
また余計な事を言ってくれたと気が滅入る。
「俊之のヤツ、今度は盛大な結婚式するって張り切ってたよ」
「それって、私の結婚式じゃなくて、自分のじゃないの?泰造君も知ってるんでしょ?カラオケ喫茶のママの事」
運ばれてきた肉うどんを前にパキンと割り箸を割り、上目遣いで泰造君を見上げると、なんとも言えない意味深な笑みを浮かべてる。
「あぁ、もちろん知ってるさ。ママと結婚しろって言ったのは、僕だからね」
「はぁ?泰造君が?どうしてそんな余計な事言ったのよ!」
堪らず怒鳴るが、泰造君は全く気にする様子もなく天ぷら定食の海老を美味しそうに頬張る。
「蛍子ちゃん、俊之はね、男手ひとつで君をここまで育てたんだ。これは、並大抵な事じゃないよ」
「それは、分かってる。でも……」
ふて腐れてる私を見た泰造君が、困った顔をして「やれやれ」と呟いた。
「俊之には言うなって言われてたんだけど、もういいかな。実はね、20年前、俊之は再婚しようとしてた女性が居たんだ」