結婚したいシンドローム=特効薬は…あなた?【完】
「再婚?」
そんなの初めて聞いた。20年前と言えば、私が9歳の頃。あの父親にそんな女性が居たなんて……
「そう、でもアイツは、その女性と別れた」
「……なぜ?どうして別れたの?」
泰造君は静かに箸を置き、いつになく真面目な顔で話し出す。
「それはね、蛍子ちゃん、君の為だ。微妙な年頃の君が心配で結婚に踏み切れなかったんだよ。その後、俊之が言ってた。
『蛍子の性格じゃあ、新しい母親なんて認めないだろう。反対に、父親を取られたと思って彼女を憎むに決まってる。だから再婚はしない』て……」
初めて知った父親の気持ち。それを知り、私は激しく動揺した。
そして、9歳だった頃の自分を思い出す。あの頃の私は父親が大好きで、いつも父親にひっついていた。母親が居なくてもちっとも寂しくなかったのは、父親が母親の役割までしてくれてたから。
美味しいご飯を作ってくれて、学校の行事も全て来てくれた。そして何より、いつも私を笑わせてくれてた。だから私は、母親が居なくて不幸だなんて一度も思った事はなかったんだ。
「私の……為に」
「勘違いしちゃいけないよ。20年前、俊之が好きだった女性と別れたのは、蛍子ちゃんの為だったけど、蛍子ちゃんのせいじゃない。アイツは、好きな女性の夫より、君の父親の方が良かったんだよ。
でも、あれから20年。蛍子ちゃんも大人になった。僕はそろそろ父親を卒業してもいいんじゃないかって思ったんだ。それに……」
そこまで言って、泰造君は口を噤む。
「それに、何?」