結婚したいシンドローム=特効薬は…あなた?【完】
「なんだよ。一緒の会社に居るのに知らなかったのか?一輝が引っ越す時、マンションの合い鍵をワシに預けていったから良かった。
それで、食欲がないって言うから、アイツの好きな物を詰めて弁当を作ってやろうと思ってな。やっと今、出来あがったとこだ」
「へぇ~そうなんだ」
どんな自信作が出来たのかと、父親が持つお弁当を覗き込んだ私は、ショックで言葉を失う。
今まで店で出してたお弁当は、見るからに美味しそうだったのに、父親の手にあるソレは、まるで小学生が初めて作ったお弁当みたいで、とても惣菜屋の店主が作ったモノとは思えない代物だったから。
「まだ包丁がちゃんと持てないから見た目は悪いが、味は変わってないぞ」
そう言って笑う父親を見てると、なんだか父親が不憫に思えてくる。
「私が作るって言うのに、一輝は自分が作った惣菜が好きなんだって、言う事聞かなくて……ホント、困った人」
ママが呆れ顔でため息を付くが、その手はしっかり父親の体を支えている。そんなママに笑顔を向けている父親の姿を見て、今、父親に必要なのは私じゃなくママなんだと思い知らされた。
きっと、このお弁当の出来栄えに一番ショックを受けてるのは父親自身だろう。なのに笑っていられるのは、隣にママが居るから。ママが父親を笑顔にしてくれてるんだね。
そして父さん、一輝の為に不自由な手で一生懸命作ってくれて、有難う。
これまでの自分の身勝手な言動を悔い泣きそうになってると、父親が私にお弁当を差し出す。
「ママに持ってってもらおうと思ったけど、蛍子、お前が持ってってやれ」
「えっ、私が?」