結婚したいシンドローム=特効薬は…あなた?【完】

「当然だろ?お前達は夫婦同然なんだから。でもな、この季節だ。インフルエンザかもしれないから一応、診療所の先生に往診を頼んどいた。先生が行くまで一輝の傍に居てやれ。なんなら泊まってきてもいいぞ」


一瞬、気が引けたけど、一輝と話すいいチャンスなのかもしれないと思い直し、お弁当とマンションの鍵を受け取り家を出た。


何から話そうかと緊張しながら歩くが、徒歩8分の距離は短過ぎて、考えをまとめる間もなくマンションに着いてしまった。


「まず、一輝に謝ろう。話しはそれから……」


そう呟き、マンションの玄関のガラス扉を開けてエントランスにあるエレベーターに乗り込んだ。


12階の1203号室。部屋の前に立つと急に怖くなり、なかなかドアを開けられないヘタレな私。


あぁ……やっぱ無理だ。一輝に面と向かって『別れよう』なんて言われたら立ち直れない。でも、せっかく父親が一輝の為に作ったお弁当を渡さずに帰れないし……


そうだ。きっと一輝は寝てる。こっそり気付かれない様にこれを置いて帰ろう。


お弁当を胸に抱え、大きく深呼吸をして父親から渡された鍵でドアを開る。ソッと中を覗くと、部屋の中は真っ暗。シーンと静まり返り、物音一つしない。


一輝、寝てるんだ。起こすのは可哀想だし、やっぱ、話しは後日という事で……


もっともらしい理由を付け自分を納得させると、靴を脱ごうと足元に目をやる。すると、ドアの隙間から漏れていた廊下の明かりが、あるモノを照らしていた。


―――えっ……ハイヒール?


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