結婚したいシンドローム=特効薬は…あなた?【完】
きちんと揃えられた一輝の革靴の隣にあったのは、光沢のあるブラックのヒール。ソレには見覚えがあった。
「……これって、ルブタンだよね?」
"絶望"という2文字が頭の中をグルグル駆け巡り、持っていたお弁当が手から滑り落ちる。その直後、玄関に落ちたお弁当がドサッと鈍い音を立てた。
慌ててお弁当を拾い上げようとその場にしゃがみ込むと、突然、廊下の突き当たりにある部屋の電気が点き、ドア開く。
ドアの向こうから現れたのは、私が想像してた通り、目の前にあるヒールの主。
「……新田……係長」
能面の様な表情のない顔で近づいて来た新田係長が私を見下ろし「何しに来たの?」と呟く。
「あ、あの……斎藤次長が熱を出して寝てるって聞いたので……」
「お見舞い?」
「はい……」
そう答えた私の肩をいきなり新田係長が突き飛ばす。
「他人の家に勝手に入り込むなんて、油断も隙もあったもんじゃないわ。まるで、ストーカーね。言ったはずよ。一輝は私を選んだの。未練がましく家にまで押し掛けて来ないで」
勝ち誇った様な新田係長の顔を見て、完全に負けたと思った。
新田係長が言ってた事は本当だったんだ。一輝に聞くまでもない。一輝は彼女を選んだ。ここに新田係長が居るのが何よりの証拠。
私達、もう終わったんだね。そうなんだね?一輝……
これ以上、ここに居ても惨めになるだけ。
「すみません……帰ります」
私が一輝の事を心配しなくても、彼には新田係長が付いてる。大丈夫だよね。