新社会人の私と不機嫌な若頭
握っている手も
杏奈にこんなチカラがあるのかってくらい強く握ってくる
「岸谷さん、そろそろいきますよ」
『は……んーっ!……はぁ、はぁ』
「次、いきますね。いち、に、はいっ!」
『んーーっ!はぁ、はぁ、はぁ』
「上手ですょね。いち、に、はぃ!」
何度か繰り返された
その度に杏奈の顔が歪み、若干悲鳴にも聞こえる呼吸、止まらない汗
「杏奈、がんばれ。」
『ん……りょう……すけさ、んーっ!』
「はい、いいよー!出てきた。リラックスして。深呼吸よ」
おばさん先生の言葉
出てきた?なにがだ?
もしかして、赤ん坊?
けど、鳴き声すら聞こえない
「岸谷さん、臍の緒きりますので、こっちに来ててねー」
杏奈の手が緩まり
『…おねがいね……』
そう言われ、そっちの方に行く
「じゃぁ、出しますね」
と、おばさん先生が言うと
何かを引っ張り出した
「……ンギャ、ンギャ……ンギャ」
誰の声でもない
明らかに……赤ん坊の鳴き声
「はい、産まれたよ。岸谷さん、ここ切ってください」
訳が分からず
言われるままハサミで切る