僕が歌えば、君が来る。
気づけば壁に追いやられていた。
少女マンガでいう、壁ドン状態。
そしてそのまま、

ちゅっ

軽くくちびるが触れた。

「………抵抗してくれるかな、嫌なら。」
「いっ………………、嫌じゃ、…………ない……。」

やっと、それだけ伝える。
言ったとたん恥ずかしさがピークになって顔を逸らそうとするが、両手で頬を挟まれ阻止された。
それでも顔を見たくなくて、顔を見られたくなくて俯いていたら、あごをぐいっと持ち上げられた。
今どきこんなことする人いるんだな……。 
なんて考えには至らない。恥ずかしすぎて。
心臓がうるさい。いっそ壊れてしまえばいいのに。
目線はあの人から離せない、吸い込まれそうだ。

「…………どうなっても知らないよ?」

あごをつかまれてるからうなずけないし、首も振れない。
否定も、肯定も、できない。
頑張って目で伝えてみるが、伝わっただろうか。
なんて思っていたら、ふっと優しく笑って、優しく抱きしめられた。
そして、ささやかれた。

「好きだよ。」

それに、私も精一杯答えた。

「……私も、です。」


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