甘々王子にユウワクされて。
……なんだ。
わたしが名前で呼ばなくても、名前で呼んでくれるような人がいるんじゃない。
なぜか、初めて考えたまともなことが、篠田先輩のことでも楓さんのことでもなく、木林くんのことだった。
おかしい、なんて思うと、少し落ち着いた気持ちになれる。
視線を木林くんのほうに移していくと、彼はひどくまじめな顔をしていた。
そして、きつく楓さんを睨んで、わたしの手を掴む。
……さっき学校で掴まれた時と同じ。
そして彼は、また、
「……結羽。行くよ」
「い、行くってどこに」
「どこでもいいから!」
……また、挨拶すらろくにできずに連れ去られてしまう。
だけど少し……木林くんには感謝しないと。