恋とは停電した世界のようです
よければ今度お貸ししますよ。と問いかけるような声が、鼓膜に触れた。
「あ、はい…でも、そのいいんですか?」
おずおずと彼を見ると
どうして?と、ふしぎそうに首を傾けられたので
「よく聴いてると言ってたので」
「…ああ、そんな全然。それに僕のは、いつでも聴けるように他の物に保存してますから」
「そ、そっか。なら、よかったです」
その言葉に、
束の間ルーカスさんは黙っていたけれど
その内くすぐったいのが我慢できなくなった子供みたいに
じわじわと目の端を細めて
「そんなことを聴いてくれたのは、麻友子さんが初めてですね」
くすくすと止まない雨のような
わらい声を、カップの中に落としはじめた。
正直、その整った顔立ちと話し方からは
彼が表情豊かにわらうことは、あまり想像ができなくて
(ルーカスさんって、こんなにわらうんだ…)
意外な彼の一面に
自然と気をとられていると
そこには、とても穏やかな色で
こちらを見詰める紺碧の瞳が
いつのまにか、わたしの瞳の中に映り込んでいた。