守られるのは卒業よ!
じっと見つめる真剣な目と全身黒装束の姿がマリカには不思議な存在で、すぐれた魔導士だと思うのに、どちらかというと、騎士か剣士のような印象が強い。


「君がスウェルの愛人だというなら、ここにいるといい。」


「はぁ?」


「ここは、王宮の中だから安全だしね。」


「王宮って・・・どこの国の?」


「シューカウリの王宮内だよ。
リオレバの王子たちが主に仕事を分担してがんばっている。

王はたぶんもうすぐ、亡くなってしまうだろう。
戦争で受けた傷がもとで病気になり、そこへ癌があることがわかってね。
もうナギンの回復魔法をもってしても、無理なんだ。」


「あの、あなたは王子様?」


「いいえ。僕は彼らの・・・いや、戦士たちの師匠というべきかな。
魔法を主に指導させてもらっている。

名はオーレン・レイ・オーナという。」



「オーレン・レイ・オーナ?どこかできいたような・・・。
あっ!スウェルのお師匠っていう天才魔導士の?」


「あははは、僕は有名人になっちゃってた?
じゃ、ここにいてもいいって気になってくれたかな?」



「あの、どうしてここにいなきゃいけないのですか?」


「君には移動魔法は危険すぎるからだ。
それと、君には教えてはいけない魔法がある。
いや、見受けられる。

さっきみたいに黄泉の国に行ってしまう危険が大。
もしかしたら、もっと恐ろしい世界へと飛び込んでしまうかもしれない。」



「もっと恐ろしい世界って・・・?」


「化け物が当たり前に歩き回る世界とか、こことほとんど変わらないのに、どことなく時間の過ぎ方や日の傾き方が違うとか、よく知ってる人なのに別人とかね・・・そういう世界へ行きかねない。」



「パラレルワールド?ですか・・・?」


「そんなとこだな。君は騎士の家に養女に出されたらしいけど、その騎士の家の家長である育てのお父上は、君に魔法ではなく、剣を教えた。
どうしてだと思う?」


「私がパラレルワールドにはまりこんでしまわないように?っていうんじゃ・・・。」


「正解!」


「責任を持った人というのは、それなりの信念をもって行動するものなのさ。
だから悪いことはいわない。
魔法は回復魔法だけ習うことにしなさい。」



「でも、せめて護身術になる魔法くらい覚えないと・・・。」



「いらぬ!君には魔法はいらん。
どうしても護身を考えるなら剣の腕を磨けばいい。
それならいちばん、不安なく行動できるはずだ。

もっとも、僕のところにきてしまった以上は戦う必要はないがね。」


「どういうことですか?」


「僕が君を守るし、君は花嫁修業をしてもらうからね。」


「待ってください!花嫁修業って私は・・・誰の花嫁になるんですか?」


「もちろん僕のだよ。
そろそろ身を固めないといけないと思ってたところだったんだ。」


「ま、待ってください!
いくらあなたが天才魔導士で有名人でも、会ったばかりの私を花嫁になんて・・・それに私はスウェルの・・・」



「愛人などという呼び名は女性をバカにしている。
守ってくれるなどありえないし、守るというのなら、きちんと結婚して妻を守ればいい。
何か、間違っているか?」


「いえ・・・。」
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