恋色~何度も君が好きだと…~
2節 はじめまして
真新しい制服を身にまとい、とりあえず今日はお顔はノータッチでスカートの長さは学校についてから考えよう
いきなりあげすぎて先輩や先生に目をつけられたら高校デビューの意味ないしね
膝上がベスト
家の玄関に取り付けられた全身が映る鏡を前に自分の顔を睨み付ける
きっと誰も知り合いいない…と思うからとりあえず友達つくって
つくれるか分からんがな
あとは男子に慣れるしかないよな、うん
大丈夫
いろいろと勉強したし…トーク術とか男子の好きそうなものとかね
何度『男の子との話し方』と検索したことか…
思い出すと何故だか懐かしいことのように感じ、噛みしめるようにわざとらしく胸の前で拳をつくる
スマホの検索履歴の一番最初がそれっていう
自分でも悲しくなる事実には目を伏せておこう
でもそれなりに努力もしたしメイク道具とか結構高かったんだから
バックやらポーチやらも全部買い換えて、かわいい感じが溢れるパステルカラーのポーチを買ったのだ
よかったことにローファーと新しい運動靴はお母様が買ってくれた
それがものすごい助かる。そう思えるくらいの値段だったのだ
あんなの自分で買っていたら私の財布がお腹をすかせてしまうことだろう
毎月金欠状態の私からしたら母が神のように感じた瞬間だった
皆が行かないような遠い高校を受験すると言ったときも母はなにも言わず受け入れてくれた
何かを察してくれたのか、もしくはただ能天気なだけなのか分からないが
最後までしつこく髪型をチェックして全身を鏡でもう一度確認
制服はなかなか可愛いもので青のチェックのリボンとスカート、ワイシャツに紺色のブレザーを羽織る
きっと海をモチーフにしていたりするのだろうな
私の住む町は海が近くて夏にはたくさんの人で溢れる
あまり綺麗と言えるような透き通る色ではないが朝日や夕日と重なるとすごく綺麗でキラキラ輝きを放つ
夜には海面に反射した星の光と空の星が見事なまでに綺麗な景色をつくる
恋人と行くスポットとしてこの辺では結構知られている海辺だった
あまり都会の町ではないから晴れると案外星は綺麗に見える
前に友達と行ったこともあるし
いじめを受けていた間も夜こっそり家を抜け出して自転車で通っていた時期があって、私にとっては少し特別な場所だった
波の音も星の輝きも月明かりも、私を癒してくれていたのだ
いつか、もし、男子恐怖症が治って
もし、好きな人ができて一緒に行ったらきっと幸せだろうな
治るか分かんないけど
少しへこんでため息をついたが私はすぐにおもいだして両頬を少し強く掌で叩いた
だめだめ、行く前からこんなにマイナスになってどうすんだ!
私は絶対に治す勢いでこの高校を選んで変わろうって決めたんだから
悪い癖だ、これも治そう
もしかしたら薔薇色の高校生活とやらを私も送れるかもしれないのだから
そうだ、そうだリア充になってやれ私
運命の人に出会えますように
「よしっ、行くか」
誰に言ったのか…もちろん自分にだが、まわりからみたらただの独り言に見えたかもしれない
意気込む感じじゃなくてちょっと呟く感じでそう声を発した
恥ずかしくて誰にも聞かれたくない
高校デビューするために遠い高校に行ってメイク道具を揃えて、今もこんなに鏡を見るのに夢中になっているなんて
昔の私ならあり得なすぎる
メイクするときならまだしも今は何か変わるわけでもないのに無駄に髪を触ったりしてしまう
玄関に誰もいなくてよかった、弟はおそらくまだ朝飯でも食っていることだろう
私も少し前まではこの時間にゆっくりご飯を食べていたのに高校は中学より遠い、すごい遠い、ほんとにマジで遠い
家からバス停に行って駅に行って電車乗って更にバスに乗って歩いて坂を登るというとても長い道のりを行かなくてはならないのだ
中学への距離の倍以上だ
というか倍どころではない
しかし、それも仕方ないことだ
これも誰も知り合いのいない学校に通うためなのだから
念には念を押して結構遠い高校を選んだ私
後悔とやらは全くもってしてはいないが交通費とかちょっともったいないなぁ、とか思ったりしている
全部お母さんが払ってくれることになっているけど、昼食は自分で作るか、お小遣いでパンでも買えという条件付きだった
当然お小遣いなんか使いたくないから自分でつくることになるのだが、そのぶん早起きしないといけないのだ
早起きとか別に嫌いじゃないけど寝てる方が幸せだと思っている
中学時代は美術部に所属していたため朝練とかそんなものもなかったから早起きには慣れていない
そのうち慣れていくだろうが慣れていくまでが大変なのだ
とりあえず、まぁなにもかもを頑張るしかない
「姉ちゃん、まだいたの?」
ガチャ、と音を立ててリビングのドアが開いて弟が顔を出す
まだ頭に寝癖がついてる状態だが着替えは完了していた
部活ジャージらしいそれは薄い青を基調としたデザインだ、背中にはKAITAN JUNIOR HIGH SCHOOL の文字が記されている
海譚中学校、それが私たちの地区が通う中学だ
家から少し歩いて坂を登るとそれは見えてくる
それなりに近くて綺麗な学校だ
だから弟は余裕ぶっこいて結構家を出るのが遅かったりする
しかし私はもうそれがダメなのだ
「うそ、結構時間経ってる!?」
「うん、もう7時20分過ぎ……」
「何故ゆえそれを早く言わないのだ!」
私は鞄を持ち直し家のドアを開けた
焦るな私、汗をかいたら前髪がヤバイことになるぞ
「そんなん、言われてもなー」
玄関まで歩いてきながら弟はそう頭をかきながら言った
私は落ち着こうと1つ深呼吸して家を出た
「行ってきます!」
ドアの閉まる音と同時に弟の「行ってらっしゃい」という声が聞こえた
空はまさに入学式日和といった感じだ
暑いぐらいの気温のなか私はいつもより早いスピードで歩いた
お母さんは後から車で来るのか、ずるいな