ベビーフェイスと甘い嘘
私の頭の中で思っていた疑問に店長が答えてくれる。
「ここで働き始めた時は学生だったから、日勤から夕勤で入ってたみたいですよ」
なるほどねー、と納得していると、
「柏谷さんなら知ってると思ってたんですけどね」
店長はそう言いながら意味深な視線を向けてきた。不意打ちの視線にドキリとする。
「どうして……そう思ったんですか?」
「いや、何となく」
ノンフレームの眼鏡の奥の表情を探ろうと思ったけど、全く考えていることが読めないほど無表情だった。
……だからこの人は苦手だ。整った顔立ちと読めない表情、眼鏡の奥の冷たい目や、人の心を覗くような話し方も全部。
「店長よりは……九嶋くんと長く一緒に働いてますからね。でも、知りませんでした。土曜日の事は私からも『入れなくてごめん』って言います。……これで話しは終わりですよね」
言葉の端に少しだけ嫌みを入れて、店長との会話を切り上げようとした。これ以上の会話は無駄だ。
「そうですね、無理を言ってすみません。家族との用事なら仕方がないですね。家族以外の人と出掛ける用事なら交渉の余地もあったんでしょうけど」
そう言うと、店長はモニターに視線を移してニヤリと笑った。